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『憂国のモリアーティ』イベントレポート

2022年3月5日、中野サンプラザにて、TVアニメ『憂国のモリアーティ』スペシャルイベントが開催された。ステージには、ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役の斉藤壮馬さん、アルバート・ジェームズ・モリアーティ役の佐藤拓也さん、ルイス・ジェームズ・モリアーティ役の小林千晃さん、シャーロック・ホームズ役の古川慎さん、ジョン・H・ワトソン役の小野友樹さんが登壇。『憂国のモリアーティ』では初めての有観客イベント、さらにファンの前で5人が顔を揃えたのも初ということで、キャスト陣も念願だったこの日を迎え、感慨深い思いを込めて挨拶した。

 

 

小野さんがMCとして進行役を務めつつ、イベントは5人による生アフレコからスタート。そこで演じられたのは、TVアニメ第23話・第24話の「最後の事件」で描かれた、それぞれのキャラクターたちの名シーンの数々だ。キャスト陣の熱演によって、観客は一気に19世紀末のロンドンへ引き込まれ、ウィリアムとシャーロックが対峙した“あの時”を目の当たりにする。こうしたイベントで生アフレコからスタートするのは珍しいが、この構成により会場の空気は瞬く間に『憂国のモリアーティ』の世界観へと染まっていった。

 





 

生アフレコ終了後、その余韻が残る中で改めて作品を振り返るトークコーナーが始まる。最初のお題は「印象に残っているシーン」。ここで斉藤さんが選んだのは、まさに今演じたばかりのウィリアムとシャーロックの最後の対決シーン。そして、古川さんが選んだのはシャーロックとウィリアムがミルヴァートンと対峙するシーンだった。どちらも二人の関係性を語る上で、決して外せない名シーン。斉藤さん、古川さん共にキャラクターの心情だけでなく、収録時にはお互いの芝居から受けた刺激が大きかったことを熱く語った。

小林さんが選んだのは、ルイスがウィリアムにオムレツをほめられたシーンと、列車内でルイスがシャーロックに敵対心を抱くシーン。いずれも理知的なルイスの感情があらわになるところで、特にシャーロックに対しては殺意が芽生えていたと正直に語る小林さんにキャスト一同からも笑いがこぼれた。

小野さんが選んだのは、シャーロックの同居人オーディションのシーン。こちらは小野さんが3役(売れない役者・娼婦・老人)を担当したことで話題になったが、シリアスな本作でどこまでやっていいのか…と思いながら挑んだ収録の裏話が語られた。

佐藤さんが選んだのは、1クール目のエンディング。楽しそうに壁に絵を描く幼い3兄弟を描いたエンディングだが、その姿が意味するものへの佐藤さんなりの考察から、話題は作品に込められたテーマやメッセージ性へと広がっていった。

次のお題は「印象に残っているセリフ」。ここでは斉藤さん、小林さん、古川さんがウィリアムの「Catch me if you can, Mr.Holmes.」をチョイス。作品全体を通しても重要なセリフだが、斉藤さんは発音やニュアンスなどについて、スタッフとディスカッションを重ねて収録したことを語った。また、この名セリフを収録時に間近で聞いていた古川さんと小林さんも、その時の様子を思い返す。ここで小野さんからのリクエストに応えて、斉藤さんがウィリアムと同じポーズでセリフを生披露。観客から大きな拍手が沸き起こった。

佐藤さんはアルバートのセリフから「兄弟三人で“ジェームズ・モリアーティ”なんだからな」を挙げる。兄弟の連帯感を感じるセリフだが、アルバートを“プロデューサー的な人”と語る佐藤さんは、彼のそうした意識が言葉に出たシーンだと振り返った。

最後に小野さんが挙げたのは、ジョンの「作戦成功だな、シャーロック!」のセリフ。燃え盛るアイリーンの屋敷での、しっかりもののジョンの少し天然な一面を物語るシーンで、スクリーンに映し出された彼の笑顔に観客から笑いがこぼれた。

 




 

次のお題は「好きなキャラクター」。ここではそれぞれが挙げたキャラクター名をスクリーンに表示し、誰が誰を選んだのかを語っていく流れに。結果は斉藤さんが「幼少期ウィリアム、ヘルダー、ルイス」、佐藤さんが「マイクロフト」、小林さんが「ウィリアム兄さん」、古川さんが「ジョン、ハドソンさん、アイリーン」、小野さんが「シャーロック」。斉藤さんと小林さん、古川さんと小野さんは、お互いのキャラクターを選び合う回答となった。

話題となったのは、この場には演じるキャストがいないキャラクターたちについて。モリアーティ陣営では数少ないユーモラスな存在のヘルダー、シャーロックの日常を象徴するハドソンさん、キャスト的(安元洋貴さん)に勝てない感があふれるマイクロフト。そうした彼らの印象を語っていくなか、アイリーンを挙げた古川さんは、演じる日笠陽子さんの芝居のカッコよさもあって好きなキャラクターになったとのこと。また、幼少期ウィリアムを挙げた斉藤さんは、その幼少期を演じる石上静香さんと2人でウィリアムという人物を作り上げていくことの面白さを語った。

 

最後のお題は「自身のキャラクターの変化や成長」。ここではキャラクターについて思うことを、それぞれが自身の考察も混じえて語っていく。小野さんはジョンとシャーロックの関係性について、古川さんともディスカッションを重ね、本当の意味でジョンが“相棒”に成長した感覚があったとのこと。それに対し古川さんは、謎解きジャンキーだったシャーロックが、そうしたジョンや周りの人々の存在により人間的に成長していく姿が印象的だったと語る。

一方のモリアーティ陣営。佐藤さんはアルバートについて、彼の中の正義は弟たちと違う部分もあるのでは…と感じていると語る。だからこそ「3兄弟」を名乗ってからは、まとまるためにあえて変化せず、ブレずにいなければならないと考えていたとのこと。また、小林さんは「ウィリアムとそれ以外」という感覚だったルイスが、仲間たちを信頼し、最終的にはシャーロックにウィリアムの命運を託したりと、作中で一番心の変化が見られたと語った。そして斉藤さんは、ウィリアムは常にロジカルな印象だが、瞬間ごとの感情の変化は確かにあり、そこが彼の人間らしい魅力だと語る。また、そうした矛盾を抱えたウィリアムも愛おしんでもらえたらと言葉を綴った。

 





 

TVシリーズを振り返った後は、いよいよ新作OVA「百合の追憶」の先行上映がスタート。アニメオリジナルのエピソードを観客がたっぷりと堪能したところで、上映後に再びキャスト陣が登壇。ここからはOVAについてのトークが繰り広げられた。

 

OVAでは小野さん以外の4名は顔をそろえてアフレコを行っていた。久しぶりのアフレコだったが、全員スムーズにそれぞれのキャラクターになれたとのこと。ウィリアムとシャーロックが温泉で遭遇するシーンでは、小林さんが不満顔のルイスにアドリブを入れたものの、1テイク目は不満が強く出すぎてしまって録り直しになったという裏話を語った。また、今回のエピソードが「温泉回」となったのは過去のオンライン上映会での小林さんの発言がきっかけとのことで、それがこうして実現したことを喜んだ。

本編については、野村和也監督から寄せられた制作エピソードを小野さんが代読する形で紹介。アニメではオリジナル要素として各キャラクターにイメージとなる花を設定し、ウィリアムは白百合となっているが、今回はその白百合とウィリアムの出会いを描いたと語られた。そのほかにも様々な制作秘話が語られていくなか、イベント限定のとっておきとして、もう1作品のOVA「モリアーティ家の休日」の制作段階の映像も特別公開! まだラフ段階の絵にキャスト陣の声のみが入っているもので、観客はここだけのレアな映像を楽しんだ。

 

今回のOVAをはじめとする『憂国のモリアーティ』関連の告知コーナーを経て、イベントは惜しまれつつも終幕の時間に――。キャスト陣は観客への挨拶として、それぞれに作品への思いを語っていったが、これからも『憂国のモリアーティ』という作品や演じたキャラクターたちと再び関わることができれば…というのは共通の願いだった。今回のイベントは配信や収録がないこともあり、OVAのネタバレトークやレアな映像の上映など異例の構成もあったが、斉藤さんはそこに触れて、観客に「皆様も我々の共犯者だと思っております」と微笑みかけた。そして、最後に「今日は素敵な時間を皆様と過ごせて幸せでした。これからも『憂国のモリアーティ』の応援をよろしくお願いいたします」と語り、イベントを締めくくった。